宇宙を創るダークマター:「宇宙カクテルのレシピ」

ダークマターを研究する第一線の理論宇宙物理学者によるダークマター研究の歴史と現状を紹介した一般向けの本である。ダークマターを観測するための技術は日進月歩で進んでおり、著者は10年以内にダークマターが発見されると予想している。ダークマターは、今が旬の研究分野なのだ。 

ダークマターの研究は1930年代にフリッツ・ツヴィッキーが銀河団の明るさから推定される光学的質量と、運動から推定する力学的質量に大きな乖離があることを発見したことに端を発する。70年代には、ヴェラ・ルービンにより銀河に含まれる恒星の運動が観測できる通常物質だけでは説明できないという銀河の回転曲線問題が明らかとなり、ダークマターが再び注目を集めることになる。

現在、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測結果から、通常物質は宇宙を構成する成分全体の5%にすぎないことが分かっている。残りはダークマター (26%) とダークエネルギー (69%)だ。このことは、宇宙初期の水素とヘリウムと構成比から求められる通常物質の宇宙全体に占める割合の予測とも一致している。

ダークマターの存在が間違いないとなると、その次には当然その正体が何であるかを突き止めたくなる。様々な説が出されたが、現在では通常物質とは弱い核力と重力でしか相互作用しないWIMP (Weakly Interacting Massive Particles)が最有力候補となっている。そして、その予測に基づいて世界各地でダークマターを検出されるための実験が行われている。日本でもカミオカンデと同じ神岡で液体キセノンを使ったXMASS実験による観測が2010年より行われている。

様々な最新の実験の結果(原著は2014年に出版)が紹介されている部分では乱雑な印象があるが、現在進行形の研究なのでそれは仕方がないだろう。本書全体を通して、専門家でない人のために、ダークマターの研究を現状がわかりやすくまとめられている。著者が経験した他の研究者とのエピソードも散りばめられており(著者は大学卒業後、2年間東京で英語教師やバーテンダーとして働いていたそうだ)、読み物としても楽しめるだろう。

宇宙を創るダークマター

宇宙を創るダークマター